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第4回:私たちは、危機で生じた途方もない借金をどのように返済してきたのか?
◎ 参加者の声
- 国債については私も関心はあったものの、今までも返さないでここまで来たので、返さなくてもいいのでは?と思ってしまっていました。本日のイギリスのお話などを聞いて希望が持てました。(学部 1・2 年生)
- 歴史を踏まえイギリスの例と対照してわかりやすく論点を説明してくれました。 国民の国家への要求が高くなり、これから国民意識がどう変わるか、また増税などのことが国民意識にどう影響するか期待しています。やはり国債に一番影響するのは国民意識だと思います。(学部 1・2 年生)
- 具体的な数字を出していたのが興味深かった。莫大な借金をどう返済しているのかについて少し理解できた。ただ途中、大学1年生にとっては少し理解がしづらい部分があったと思った。(学部 1・2 年生)
- 質疑応答がもう少しあると良かった。他の参加者の意見も聞いてみたかった。(学部 1・2 年生)
- 19 世紀英国が借金を返済できた社会的状況が気になります。 補足資料、参考文献等を挙げていただければなお有難いです。(学部 3・4 年生)
- 歴史的事例、理論的推定も交えながら簡潔に説明いただき、大変勉強になりました。(学部 3・4 年生)
- 国民が国家に要求することが増えたことが、この20年の財政赤字の背景にあるという視点を新たに知ることができて良かった。(学部 3・4 年生)
- 最後の先生の奥さんのお話が心に残った。確かに、私たちの親の世代では川が汚れていて空気が淀んでいるのが当たり前だったのに、今では川には鮎がいて、空気は澄んでいるなあ...と思った。国には借金があるのが当たり前で、返せないとしてそんなものかなあ...なんて思っていたけれど、その当たり前を疑って変えていくこと、そして私たち世代の意識が大切なんだと思った。(学部 3・4 年生)
- 日本の財政の体制について知り、改めて考える時間を得られてよかったです。疑問に思った点について調べ、勉強しようと思います。(学部 3・4 年生)
- 初めてセミナーに参加しましたが、わかりやすかったため、今後も参加しようかと思いました。(大学院生)
- 大変難しい問題である国の借金を、我々の等身大のところに引きつけてわかりやすく講義していただき、大変ためになりました。(大学院生)
- もう少し質疑応答ができると良かったですが、大変興味深く聞かせていただきました。日本の進むべき道について自分なりに考えていきたいと、気持ちが奮い立ち ました。(大学院生)
- 今後の僕らの世代が担っていかなければいけないことを痛切に感じさせられた気がします。ただ、最後に齋藤先生の奥様の話にもありましたが、こういう時こそ楽天的に前向きに、問題に取り組んでいくべきであると感じました。 あと、人間は時として成長できない焦りであったりしたものによって、借金をあっという間に増やしてしまうものなんだと感じました。そういう意味でも、そういった人間の弱さや誘惑への弱さをしっかり自覚して、そういったものと人間自身が対応するためにきちんとしたルールや制度を作らないといけないなと感じました。(大学院生)
◎ セミナーを終えて
我が国が積み上げてきた「途方もない借金」(公債残高の累増・債務残高の国際比較)を、私たちはどのように返済していったらよいのでしょうか? 「途方もない借金」に「途方に暮れる」人も多いかもしれません。あるいは、日本の公的債務は問題ないと説明してくれる「専門家」の楽観論を信じることで、心の安定を得ようする人も多いのかもしれません。
今回お話頂いた経済学研究科の齊藤誠先生は、そのような状況に警鐘を鳴らします。楽観論を述べる専門家の中に学者もいることへの危惧。そして現状を正しく認識できないがゆえに、私たちが正しい選択を行えないでいることへの危惧。現状への強い危機感を、齊藤先生のお話の中に感じました。
では、どうしたらよいのか? 齊藤先生は、正しい選択を行うために、私たちは「経験」ではなく「歴史」を学び、まだ見ぬ未来を思い描くための「理論」を学ぶことの大切さを強調されました。確かに、これだけ借金を蓄積しても日本は破綻していないという「経験」に基づくと、このままでも日本の財政は破綻しないだろうという判断に至ってしまう可能性があります。
残念ながら、人間は、自らの経験という「小さな世界認識」に基づいて判断してしまう傾向があるようです。歴史を学んだり、理論を学んだりすることで、私たちの世界認識は広がり、誤りの少ない判断を行えるようになるのだと思います。「賢者は歴史に学び、愚か者は体験に学ぶ」という言葉は、ビスマルクの言葉と言われていますが、斎藤先生なら「賢者は歴史と理論を学び」と言い換えるかもしれないと思いながら、お話を聞いていました。
今回も、1、2年生にとっては、少し難しいと感じた部分もあったことでしょう。しかし実は、わかりやすくお話して頂いた齊藤先生のお話の背後にはかなり難しい理論的問題が存在していて、経済学をかなり学んだ学生あるいは教員にとっても、齊藤先生のお話の中には「難しい」と感じる部分があったはずです。今回のお話のすべてが簡単にわかるようなら、経済学を学んだり、発展させたりする意義はないだろうとも思います。
人間の社会や経済は複雑です。その複雑な社会や経済で起こる問題の本質を見極めることは、誰にとっても難しいことです。若い人たちには、私たちの社会や経済についてもっと知りたい、もっと理解したいという気持ちをぜひ持ってもらえたらと思います。そして、そのような気持ちを満たしてくれる場として、大学で開かれる授業やセミナーに積極的に参加し、ぜひ先生方に疑問をぶつけてみたりして欲しいと思います。特に本学で学んでいる学生の皆さんは、一橋大学という日本で最もすぐれた社会科学の研究者を数多く有する大学で学んでいるのですから。
しかし、私たちは、学びを続ける一方で、国の未来に大きく関わる問題に関して、政治的選択を行っていかなければなりません。若い人たちの中には、社会や経済についてよく理解できないまま、そのような重要な政治選択に関わる投票に行ってもよいのかと感じて、投票に行くことを躊躇する人もいるかもしれないと思っています。
しかし、どのような年齢になっても、複雑な世の中がわかるようにはならないのですよ。どんな大人も、最後は直感で投票していると思います(笑)。ただ、色々なことを経験し、色々なことを学ぶことで、私たちの直観的判断は過ちを犯しにくくなることも知られています。民主主義社会では、国民一人ひとりが投票に参加しながら、世の中のことを学び続けていくことが大切なのではないかと思います。このセミナーが、そのような学びの場の一つとなればと思っています。
今回のセミナーでは、齊藤先生のお話に引き込まれてしまい、質疑応答や意見交換の時間を十分確保できなかったのは残念でしたが、私にとっては、とても深く記憶に残る講演でした。この講演のために、齊藤先生が原稿を準備してくださり、しかも、ご家族の前でリハーサルまで行って下さったとのお話を伺い、その理由の一つが理解できたような気がしました。上記の「参加者の声」の中に、齊藤先生の奥様のお話が出てきますが、リハーサルの後に奥様がおっしゃったお話とのこと。直感的把握力・表現力の素晴らしさに私も感動しました。
このセミナーを通して、私自身が学んでいることがたくさんあることを毎回感じています。この場をお借りして、今回講演して頂いた齊藤先生にあらためて感謝の気持ちをお伝えさせて頂きたいと思います。今後とも、いろいろな方のお力を借りて良いセミナーを開催し、参加者の皆さんと一緒に学んでいければと思います(山重)。